立て続けに訪れた、受け止めきれない出来事
1年前、
A社長は、次期後継者として考えていた
長男を亡くされました。
そのショックが癒えない中、
ご自身の持病も悪化し、
手術が必要な状態に。
これまで、
ホール建設から経営の仕組み化、
家族葬施設の出店まで、
長期にわたって伴走してきた会社でした。
だからこそ、
この知らせは、
経営の話以前に、
一人の人として胸が詰まる出来事でした。
「もしもの時」を考えざるを得なかった理由
そんな折、
M&A会社から
企業価値算定の打診がありました。
当時のA社長は、
その話に対応されていました。
後継者を失った喪失感と、
自身の健康への不安。
その中で、
会社の譲渡という選択肢が
現実味を帯びてきたようでした。
「売りたい」のではなく、「守りたい」
その後、
M&A会社から
5社の譲渡候補が提示されました。
しかし、
どの会社にも決めきれず、
こんな連絡をいただきました。
「どこに譲ったらいいのか、
正直、分からない。
相談に乗ってもらえないだろうか」
すでに顧問契約は終了していましたが、
スポットでの相談として
お話を伺うことになりました。
対面で、あらためて確認したこと
まず行ったのは、
条件の話ではありません。
A社長の意志確認でした。
「自分に何かあった時、
社員が路頭に迷うことだけは避けたい」「この機会に、
会社の行き先を決めておきたい」
その想いは、
一貫していました。
「譲渡先を探す」のではなく、「託せる相手を探す」
5社の候補について、
一つひとつ
社長の意向と照らし合わせましたが、
決め手にはなりませんでした。
そこで、
ふと思い浮かんだ会社がありました。
営業エリアが隣接し、
価値観も近い、
私の知り合いの葬儀社です。
その会社の名前を出した瞬間、
A社長の表情が変わりました。
「その会社であれば、理想です」
即答でした。
肩書きではなく、人として会う
後日、
両社長に
昼食を兼ねた面談の場を設けました。
難しい条件交渉ではなく、
これまでの経営の話、
社員への想い、
地域への向き合い方。
自然な会話の中で、
二人はすぐに意気投合し、
話を進めることを決断されました。
想いが形になった日
それから約3ヶ月後、
契約書の調印式が行われました。
形式的なM&Aではなく、
想いを託す承継。
A社長は、
少し肩の荷が下りたような表情を
されていたのが印象的でした。
そして、1年後
契約から1年後、
A社長は、
手術の甲斐もなく
この世を去られました。
葬儀に参列した際、
奥様とお嬢様から
こんな言葉をいただきました。
「B社長とのご縁をつないでいただいたこと、
本当に感謝しています」
その言葉は、
今も忘れられません。
意志は、受け継がれている
現在、
A社のスタッフは全員、
新しい体制のもとで、
亡きA社長の意志を受け継ぎ、
未来に向けて仕事に取り組んでいます。
会社は、
数字や契約だけで
成り立っているものではありません。
人の想いと、
関係の積み重ねで
続いていくものだと、
改めて感じた事例でした。
会社を譲るという決断は、
終わりではありません。
想いを、未来へつなぐ選択です。
北関東エリア
売上規模2.0億円〜3.0億円 社員9名 葬儀会館1 家族葬施設1
譲渡前の直近2期は10%前後の経常利益




